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森づくりは、国づくり!

2013-10-08

「先進国の課題」
 2013年6月、復興庁・復興推進委員会から「新しい東北の創造に向けて」と題
した中間とりまとめが発表されました。この中では“我が国の人口減少、高齢化、
産業の空洞化といった課題を抱えたままの現状へ復旧するのではなく、震災復興
を契機にこれら課題を解決し、我が国や世界のモデルとなる「創造と可能性ある
未来社会」の形成に向け、全国に先駆けて取り組んでいく必要がある”と謳って
います。
 今の日本で、少子高齢化や産業空洞化への対策を無視できる地域はゼロでしょ
う。のみならず、成熟国家である先進諸国は、皆いずれ同じ課題に直面する運命
にあります。
 そこで外してはならない視点が、「少子高齢化や既存産業の空洞化が進んでも、
活力有る国家として維持・発展していくためにどうすべきか?」です。
基本的に、人・物・金・情報が上手く循環し続けていれば、国や地域の活力は衰えません。
 本稿では、他のどの国よりも急速に少子高齢化が進み、どの国よりも個人の現
預金比率が高い日本が、世界のモデルとなるべく「活力ある未来社会」を実現す
るため、如何に「人とお金を循環させていくか?」の一つのヒントとして、私共
の「Present Tree(プレゼント・ツリー)」プロジェクトをご紹介します。

「呼びかけは“人生の記念日に樹を植えよう!”」
 日本の森を護ろう!と言えば、多くの人達は賛同しますが、具体的な参加には
至りません。しかし、「子供が生まれたから記念樹を植えよう」「結婚の記念に
樹を植えよう」となると、動き出します。多くの人は「ワタクシゴト」として捉
えた時に初めてアクションに参加してくれます。
 だからPresent Treeは、人生の私事の最たる「冠婚葬祭」をはじめとする記念
日に、植樹が必要な焼失地や皆伐放棄地、被災地などに樹を植えて森を再生させ
るというスキームとなっています。Present Treeによる植樹が必要なエリアは、
イコール「地元だけでは森林再生がままならない地域」であり、即ち少子高齢・
過疎化の進むエリアです。
 Present Treeの参加者は主に首都圏をはじめとする大都市の個人や法人の皆様
です。皆様の「大切な記念樹」は、一本一本に識別番号を付けてこの番号毎に
「植林証明書」を発行、皆様のお手元にお届けし、以後10年(場所によっては20
年)に亘りその樹を管理していきます。

「10年かけて育む交流と自立型の仕組み」
この10年という期間は、人間が手をかけて積極的に森林への遷移を手伝っていく
べき時間という側面と、記念樹を機に生まれた参加者と当地との御縁、および地
元の人たちのモチベーションを育むための時間という側面とを併せ持っています。
その間、通常行われるべき森林の施業管理は勿論のこと、その他、識別のための
番号札が外れれば改めて付け直し、樹が立ち枯れすれば、同じ時期に予備に植え
た別の元気な樹に番号札を付け替える、というとても細やかな、はっきり言えば、
とても面倒な作業を、各地の林業家に委託しています。
 なぜ、そうまでするか?というと、10年間しっかり皆様の記念樹をその森に維
持し続けることで、都会の人たちの、はじめは「自分の記念樹」にだけ持っていた
愛着が森全体に拡がり、森に行きたくなり当地を訪れ、当地の人たちとも縁が生
まれ、当地の賑わいや経済的活性化にも貢献するようになり、故に森も潤い続け
る、という好循環を目論むからです。
 そして、人間社会にとって決して短くはない10年間という約束を担保するため、
また、地元の方々にしっかりコミット頂くために、私共主催者と、地元首長さん、
地元林業家さん(多くは森林組合)、そして森林所有者さんとの4者間で、がっ
ちり協定を結びます。こうすることで、仮に私共団体が無くなっても、外の3者
だけで約束が履行される仕組みとなっています。
 このようなミッションと、それに伴う緻密な仕組みが信頼に繋がり、最近では、
大手企業の参加が増え続けており、これらの企業経由も含め2005年1月のスター
ト以来今までに、お陰様で延べ250万人超もの方々に参加頂き、およそ4億5千万
円が集まり、国内外23箇所の森林再生を担うまでに育っているプレゼントツリー
・プロジェクトです。

「眠れる資産の有効活用」
 ところで、家計が保有する金融資産の内、現預金に回っている資産比率がダン
トツの日本ですが、60歳以上の世帯による貯蓄総額が全体の56%を占めると言い
ます。(平成20年末 日本銀行「資金循環統計」)
これらのお金をどうやって上手く流通させるか?が、重要な経済施策の一つでも
ありますが、Present Treeでは、正にこのストックの流動化も狙っています。個
人参加者から申込時に任意でアンケートを取ったことがありますが、60歳以上の
方々で26%を占めているという結果でした。(n=1134)
高齢の父を見て実感していますが、彼らは本当にお金を使いません。使いたくな
る対象をうまく・早く世に提示できないと、相当なボリュームのお金がずっとス
トックされたままです。当たり前の話ですが、お金は流れていることで価値が生
まれます。
Present Treeに苗木の里親として直接的に資金拠出してもらい、過疎地の森林再
生のために地元の雇用等に資金を流すというルートはもちろん、それとともに、
預貯金の替わりに「Present Treeにお金を預ける」ことで、実際の利回りはゼロ
でも、新しい形の「利息」、それは過疎地からの感謝だったり、地域政策への参
加感や達成感だったり、、、いろいろ考えられますが、これらを得ることができ
る「新しい資産運用」の在り方を模索し続けてもいます。

「地域が潤ってこそ、森も潤う」
森には、ご承知のとおり、綺麗な水を育み、美しい環境と生態系を保全し、国土
を災害から守る等の沢山の大事な機能があります。そして、その森林に国土の約
7割が覆われている日本なのだから、私共では、「森づくりは国づくり」だと言っ
ています。
「地域が潤い、そして森も潤い、だから国土も潤う」
そんな地域と森の理想的な循環を目指すコンセプトが理解され、環境大臣賞をは
じめ、千葉県里山活動協定認定や宮崎県二酸化炭素森林吸収量認定等各地で評価
を頂くことができました。また、現在では色々な自治体からPresent Treeへの勧
誘が入り、2012年10月からは、いよいよ東日本大震災被災地でのPresent Treeが
岩手県宮古市で始まっています。
被災地への支援熱が冷め始めるこのタイミングで、10年かけて当地の復興に寄り
添えるPresent Treeは地元からも大いに期待されており、気を引き締め直してい
るところです。
(自治体国際化フォーラムoct.2013へ寄稿)自治体国際化フォーラムoct.2013


鈴木敦子 ■admin ■comments (0)

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